『ハチドリのひとしずく』に関する想い
南米・アンデスに伝わる説話です。
世界中のいろんなところで愛され、読まれ、語り継がれている話です。
あるとき、森が燃えていました。
森の動物たちはわれ先にと逃げていきました。
でもクリキンディ*2という名のハチドリだけは行ったり来たり。
口ばしで水のしずくを運んでは、火の上に落としていきます。
動物たちはそれを見て
「そんなことをして何になるんだ」
と笑いました。
クリキンディはこう答えました。
「わたしは わたしに できることをしているだけ」
■(たぶん)一般的な「環境」っていう部分での解釈
で、この話を「環境」っていう部分から切り取るとこうなります。
というか実際に「ハチドリ計画」なんかも含めて、こんな注釈をしてるところが多いはず。
火事になった森=温暖化(高温化)してしまっている地球。
その地球の温暖化をとめるには、小さなことでも「やること」が必要だ。
あなたの小さなアクションこそが温暖化を止める。
みたいな感じですね。
環境活動とか温暖化を止めるとかって言うとどうしても大げさなことを求められるような気がするので、そうじゃなくてほんの小さなことからでいいんだよ・・・という、子どもには響くものかもしれない。
でもやさぐれちゃって、「中立」ぶった大人たちが言います。(もしくは2ちゃん脳とも言う)
「そんなひとしずくで森の火事が消えたとは思わない。結局、自己満足の領域じゃないか。非効率だ」
言っちゃあ悪いが、浅い・・・浅いですよ。
その浅くて、批判的な思考ルーティンが支持されるんだとしたら、もう世の中は変え甲斐のあるものだと言わざるを得ない。
■クリキンディは冷静に、最善の選択をした
実は、クリキンディは非常に効率的なことをしています。
消費者を効率的に消費活動へと向けさせるルーティンとして、「AISAS」*3という言葉があります。
AISASとは、
Attention 注目をすること
Interest 興味を持つこと
Search 調べて、検証すること
Action 行動すること
Share 情報を共有すること
実はクリキンディもこのAISASを知ってか知らずか、踏まえながら行動しているのです。
↓身体を大きく使ったアピールで注目を受ける(A)
↓他の動物と違ったアクションにより興味を持たせる(I)
↓それはどういうこと?と聞かれ、答える(S)
↓〜ここからは創作
↓動物たちの中に動き出すものが出てくる(A)
↓火事が鎮火される状況を情報共有する(S)
↓そして、その情報に気付き注目する動物が出る(最初に戻る)
つまり、ただ単に小さな声をあげたりとか、有力者(象とかライオンとか)に相談して時間をかけたりとかするよりも、まずは派手に動き回って賛同者(に至るまでではなくとも、興味を持つもの)を募るほうが、はるかに最短時間で効率がよかったっていうことです。
しかも、これは誰も傷つけないし、誰も傷つかない。
『ハチドリ』として選択しうる、最善の方法だったんじゃないかと。
で、これは実際に山火事をどう消せばよかったか?という方法論ではなくてですね。
いまある能力や境遇、社会的影響力などは千差万別だ。という中で、現在持ちうるカードをどれだけ有効に活かして、最善の結果を得るか?ということに関する示唆なんです。
「わたしは わたしに できることをしているだけ」
というのは、自分は自分にできることだけやってりゃイインダヨ〜というある意味お気楽主義にのっとったものではなく、自分のおかれた状況を正確に、冷静に判断をした上で「自分が自分にできる(最善の)こと」をしているんだという意思表明なんですね。
■本気で火事を何とかしようとしたクリキンディ
で、なんでそこまでクリキンディが本気だったということを前提にしているのか?という点についてですが、これにはまた物語の世界へ入っていく必要があります。
燃え盛る森林。
その中に単身飛び込むクリキンディ。
どう見ても、完全に、いのちをかけてますよね。
燃やされ、死んでしまうかもしれない。
こんなクリキンディが「お気楽主義」とか、読解力というか想像力が欠けているとしか思えません。
でも本気で火事をなんとかしようとしたから、自分の世界を守ろうとしたから、最善の方法を最短で考えて、迷う間もなく行動したわけです。
ぼくはこんなクリキンディに感銘を受けたこともあり、「カトキンディ」と呼ばれることを今もなお続けていますし、今後とも名乗っていこうと思います。
■ハチドリの話には続きがある
このあとどうなったか?
クリキンディの本気の広報戦略は効を奏し、笑って諦めていた動物たちも彼の行動に希望を見出しました。
まず始めに動き出したのは彼に近い、鳥たちでした。
ある鳥はその大きな口ばしでもって、水を多量に運びました。
ある鳥はその美しく通る鳴き声でもって、クリキンディたちの行動を唄にして伝えました。
ある鳥は群れをなし、その編隊でもって、その存在をアピールしました。
すると、他の動物たちもクリキンディたちの行動に共感し始めます。
象たちは大きな鼻でもって、水を火に一斉に浴びせます。
勇猛なライオンたちは、火におびえる動物たちを勇気付け、奮いたたせます。
そのうち、その森に住んでいた動物たちはおろか、他の森に住んでいる動物たちまでもが「火が燃え移ってはいかん」とばかりに火を消しに大挙してやってきました。
中には「楽しそうだったから」というアホな理由で参加した動物もいました。
そして、火事は消えました。
結局、森は半分以上失われてしまいました。
でも、彼らはけして絶望も、諦めることもしませんでした。
なぜなら、森もまた、彼らを守ることを太古の昔に約束していたからです。
かくして、クリキンディという小さなハチドリの行動は、森を救いました。
ご都合主義で創作した内容ではありますが、僕はこれを信じています。
「わたしは わたしに できること」
これは本気のモチベーションに基づいた、とてもとてもアツい言葉なんです。